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ライブハウスができるまで 第4回 ほぼ完成、しかし新型コロナの影響でオープン延期

約4年前2020年04月17日 9:05

店長であるスガナミユウに話を聞きながら、東京・下北沢のライブハウス / クラブ・LIVE HAUSLIVE HAUS(参照:下北沢に新たなライブハウス「LIVE HAUS」4月オープン)が完成するまでを追うこの連載。当初は4月9日のオープンを目指して準備が進められていたLIVE HAUSだが、新型コロナウイルス感染拡大のリスクを避けるべく、開店を延期することを発表した。今回はスガナミと共同で店長を務める宮川大仏に、2人が一緒に店を立ち上げることになった経緯やLIVE HAUSのステイトメントについて、さらにオープン延期となった現在の心境を聞いた。

出会いはOrgan bar

店長が2人という珍しい体制で運営していくLIVE HAUS。2人の出会いは、スガナミが下北沢THREE、宮川が渋谷のOrgan barでそれぞれ店長を務めていた頃にさかのぼる。

スガナミ Organ barで松田“CHABE”岳二(CUBISMO GRAFICO、Neil and Iraiza、LEARNERS)さんと古川太一(KONCOS)くんがOrgan barで「MIXX BEAUTY」というレギュラーパーティをやっていて。大仏くんと知り合ったのは、そのパーティに遊びに行ったのがきっかけです。僕の周りの友達もOrgan barでイベントをよくやっていたし、クラブだから仕事終りに遊びに行くのにもちょうどよくて。そのうちにお互い独立願望があるってこともわかってきたんです。

大仏 そうでしたね。僕はOrgan barに15年間くらいお世話になって、店長としては9年間勤務していました。それだけの勤務年数になると、次第に自分の店を持ちたいという気持ちが強くなって。そのタイミングでスガナミさんと独立についての話もするようになったんです。お互いこの業界について思うところもあって。

スガナミ 「自分たちで店を持ったらこうしたい」みたいな話はしてたよね。「ただ雇われている立場だと限界があるというか、その店なりの考えや方針があるよね」っていう。それならお互いに協力し合って独立しようかという話になっていきました。

THREEとOrgan barのいいトコ取り

その後の独立の経緯は、本連載でも触れてきた通り。店長を2人で務めることについては、店の強みになると感じているそうだ。

スガナミ そもそも1つの箱に店長が2人いるってこと自体が珍しいんですよね。ライブハウスとクラブという異なる業種の店長をやっていた2人が協力して1つの箱を作り上げるわけだから、お互いのいい部分が同居しているような空間にしたかった。

大仏 それができてる店ってなかなかないですもんね。

スガナミ そうそう。それにイベントを制作する人間によって店のカラーが決まってくるんですけど、ライブハウスもクラブも、企画制作を行える人材が不足しているんです。それで言うと、それぞれの店で1年間のほとんどのスケジュールを埋めていた人間が2人もいるというのはうちの強みかなと思っています。あとどの職種もそうだと思うんですけど、店長は孤独なんですよ(笑)。いろんな場面で最終的な責任を持たなきゃいけない。それが2人体制になることで、いい意味でリラックスして働けるんじゃないかなと。

大仏 今の時代、小箱のクラブでもライブイベントを企画するところが増えたり、お酒やおつまみを充実させてバーの要素を強くしたり、音のよさで勝負したりとそれぞれがセールスポイントを強化しているんです。ただ昼間はライブハウスで深夜はクラブとか、1日通してクラブイベントを企画したりと柔軟に対応できる箱は少なくて、それがスガナミさんと一緒ならできるんじゃないかと思ったんです。あと雇用環境的に業界全体がホワイトだとは言えないので、その部分も改善していきたいっていうのは2人の共通のテーマとしてありました。

スガナミ しっかりとした雇用条件で運営出来ている店もあるから、自分たちが作る店もそうしなきゃっていうのはあるよね。ただこの粗利の少ない運営スタイルで店を回していくためには、平日もDJを入れて深夜3時頃まで営業する必要があるし、1カ月通してフルで稼働させるくらいイベントを打たなくてはいけない。でもLIVE HAUSは店長2人体制だから、THREEのときよりは楽なんじゃないかって気はしてます。

大仏 僕もそう思います(笑)。これも僕たちの強みですよね。

スガナミ そう、僕も大仏くんも前の職場から自分のコンテンツを持ってきてるんですよ。それと合わせて新しいイベントも企画していって、月のスケジュールを埋めていけたらと思っています。

無料でDJイベントができる箱

LIVE HAUSではオープンに先駆けて店のステイトメントを表明しており、その施策の1つとして“箱代0円を目指す”と掲げた。 実際に23:00~29:00のクラブタイムにDJのみのイベントをする場合、ホールレンタル料を無料に設定している。つまり主催者は無料でイベントを行うことができるのだ。そのほかのレンタルプランも2万円から。破格と言える内容だ。

スガナミ ステイトメントについて話すと、大前提として新型コロナウイルスの問題が出る前に作ったものです。あれからだいぶ状況が変わってしまいましたので、もしも今ステイトメントを作ったら内容は違ったものになっていたかもしれません。新型コロナの件を抜きにして話すと、まず大仏くんとの共通認識として「箱代がアーティストの負担にならないように」というのがありました。だからホールレンタル料は相場よりもかなり安く設定していて、さらにドリンクの売り上げに応じて箱代を相殺できるシステムにしています。要は箱代という最低保証を設けつつ、ドリンクさえ売ってくれればそのお金も返しますよってこと。うちは平日の夜だと箱代が2万円だから、1000円のチケットで集客が20人あればペイできるし、50人来れば主催者に3万円の売り上げが入る。ただ、こちらも人件費をなるべく抑えなければならないので、基本的にはイベントの担当者、バースタッフ、PAの3人というミニマムな編成で回していきます。だから受け付けだけは主催側にやってもらうことにしていて。もちろん人件費をいただければこちらで用意しますけど、主催者によっては少しでもコストを抑えたいって人もいると思うんですよ。そういう選択肢があってもいいかなと。

大仏 小箱の発想ですよね。小さいクラブのイベントは知り合いで回してることが多いから、箱代は取らずに集客に応じてギャランティを決めるとか、お酒をオーダーしてもらえるような雰囲気を作ってくださいっていう。基本的にドリンクで売り上げを立てていくっていうスタイルです。

“人によっては入場無料”の理由

さらにステイトメントには、未成年者と海外からの旅行者はドリンク代のみで入場できることも打ち出されていた。いわば“人によっては入場無料”という独特な施策だが、そこにはこんな意図がある。

スガナミ 狙いとしては、若い子たちがゲームセンターやカラオケなどに行くような感覚で、「ソフトドリンク代だけで入れるから、LIVE HAUS行ってみる?」というのが増えたらいいなと思って。

大仏 特にライブハウスって出演者を目的に行く場所だったりするので、飛び込み客が少ないんですよね。

スガナミ そう。そのもともとゼロだったところにアプローチしたい。それに18~20歳くらいの頃って感性を伸ばす時期でもあるじゃないですか。でもお金は持っていない。僕は18歳で上京してきたけど、当時を振り返ってみても、行きたいライブを金銭的な問題で諦めることが多かった。だからこそLIVE HAUSみたいな箱があったらなと思うんですよね。年齢的にもいろんなことを体験して吸収する時期だし、うちに遊びに来て「バンドって楽しそうだな」「DJやってみたいな」と思ってもらえたら最高です。

大仏 若い子たちがライブハウスやクラブカルチャーに触れるきっかけを提供できたらいいですよね。海外からの旅行者について話すと、向こうのクラブってエントランスフリーのところが多いんです。それもあって日本のクラブにもフラッと入ってくるけど、入場料がかかることを伝えると帰ってしまうことも多々あって。

スガナミ そのパターンは本当に多いよね。そういう人たちって奇跡のタイミングでいらしているだけなので、それが入場料云々で入れないというのは単純にもったいない。若い子にしても外国人観光客の方にしても、もともと来る可能性自体がゼロだったわけだから、そこはドリンク代だけで入場してもらって、かつイベントを楽しんでもらえたら出演するアーティストやDJもうれしいと思うんですよね。

前年の売上実績がないと給付金も申請できない

前述の通り、新型コロナウイルス感染拡大のリスクを考慮して、LIVE HAUSは4月9日の開店は断念することに。現在2人は感染症対策の設備導入を進めながら、ライブハウスやナイトクラブ、劇場など文化施設への補償を政府に求めるための署名活動「SaveOurSpace」の活動(参照:ライブハウスへの助成金求めるSaveOurSpaceに30万筆「もう一度人が集まれる場所に」)にも力を注いでいる。

スガナミ 人命に関わることなので開店延期を決断しました。正直、悔しい気持ちでいっぱいです。ただ、何もせず事態の終息を待っているだけでは歯痒いので、今は新型コロナと向き合うためにも感染症対策の設備導入を進めています。具体的には体温検知用のカメラ、次亜塩素酸による空間除菌ができる脱臭機、紫外線殺菌装置などを設置したいと考えています。僕らは新型コロナ感染拡大が終息したあと、人が集まれる場所のよさや魅力を取り戻すことが必要だと考えています。今はお店を開けることはできないけど、いつか来るその日のために準備を進めているって感じですね。あと今一番心配しているのは、この状況が落ち着いたときに果たしていくつのライブハウスやクラブが生き残っているのかということ。僕らの商売って、月のイベントが5本飛ぶだけでもかなりの痛手なんです。運営しているのは零細企業だったり個人事業主だったりするし、貯蓄があるところばかりではないですから。終わりが見えない中でみんな営業自粛をしているわけだけど、家賃の支払いは待ってくれない。現時点で廃業をせざるを得ない店も出てきていますし、この状況が1年続けばほとんどライブハウスやクラブが店を畳まないといけなくなるんじゃないかと思います。

大仏 正直、このままだと半年保たずに全部潰れる可能性もありますよね。

スガナミ 僕らもこのまま店を開けることができないとなると厳しい。皆さんのご支援のおかげでクラウドファンディングを成功させることができましたけど、今の状況だとオープン前の廃業もあり得ます……。中小企業や個人事業主向けの給付金制度はあるのですが、LIVE HAUSの場合は去年の売り上げ実績がないので前年比を出すことができず、そもそも申請することすらできない。今月も見込んでいた売り上げが一切なくなったので、すでに400万円ほどの赤字が出ています。そこでLIVE HAUSを含め、同じ境遇のお店や従業員、出演者、フリーランスのスタッフの方々、飲食店、劇場など今困っているすべての人たちの状況を打破するためにも、「SaveOurSpace」の活動を積極的に行っているわけです。「SaveOurSpace」に関しては本当にたくさんの方々が賛同してくださって、少なくとも何かしらの影響があるのではないかと手応えはあります。ライブハウスや劇場といった文化施設だけでなく、そこに携わる人々を含めて1つの文化だと思うので、国には適切な助成をお願いしたいですね。

大仏 これまでにも風営法のクラブ規制撤廃を求める署名活動などありましたけど、「SaveOurSpace」にはそれ以上の力を感じました。これだけ規模が広がったのは初めてのことですし、あの署名が日本政府に届くことを願っています。今、仲のいい同業者と連絡を取っても「お互いがんばろう」みたいな話しか出てこないんですよ。まだまだ先は見えないですけど、この状況を乗り越えて人間の強さを見せてやりたいです。

スガナミ 今でっかい音でライブやDJのパフォーマンスを観たら泣いちゃうかもしれない。ライブ配信の魅力もありますけど、やっぱり生のよさってあると思うので、終息後にそのよさを現場に取り戻したいと考えています。

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自の運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末にTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。

宮川大仏

1982年生まれ、酒と酒場をこよなく愛する。2005年に東京・渋谷にある老舗クラブOrgan barにスタッフとして就職。2011年からは店長として店の運営に携わる。2019年12月にOrgan barを退職。2020年、スガナミユウらと共にライブハウス / クラブ・LIVE HAUSを立ち上げる。

取材・文 / 下原研二 撮影 / 斎藤大嗣

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